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金融商品に頼ったGMの失敗

2009/02/03 18:33

 

トヨタとGM(ジェネラル・モーターズ、General  Motors)の危機は、まったく中身がちがう。比較すらできないといってよい。約1兆2000億円の政府融資をうけるGMのワゴナー会長兼CEOは、「3月末までの資金はなんとかなる」と語ったそうだ。意地悪くかんぐれば、これだけの公的資金の投入をうけても、4月以降の資金繰りのめどはたっていないということではないか。その深刻さは、はかりしれない。その点、巨額の赤字を計上しても、トヨタに倒産の危機はない。

 

トヨタとGMのちがいは、なんであろうか。ひとことでいえば、「企業の心構え」であろう。ユーザーを踏み台にして、金融工学などで生き延びようとしたGMと、顧客を最優先し、安全、かつリーズナブルなクルマを提供しようと努力してきたトヨタの差といってよい。

 

2月2日夜10時から放映されたNHKスペシャル「アメリカ発 世界自動車危機」は、見ごたえのある番組であった。身につまされる話も多かったが、なるほどと納得するところもあった。

 

教えられることの多かったのは、GMの大量販売のカラクリをとりあげた、<第二章 “架空消費” 巨大市場の崩壊>であった。この章を、見過ごした方々のためにも、つとめて忠実に活字で再録してみたい。サブプライムローン問題もふくめて、アメリカ経済の病弊を解き明かすうえで、大いに参考になるはずだ。

 

昨晩のNHKスペシャルによれば、いま、アメリカで引く手あまたの業者は、レポマンだという。レポマン? 耳慣れないことばだ。レポマン(英語でつづれば、repossessionで、回復とか、取り戻しという意味)とは、クルマの取り立て業のこと。自動車ローンが返せなくなった人たちのクルマを、金融機関に代わって強制的に没収するのが、かれらの仕事である。

 

真夜中、寝静まった住宅街で、レポマンたちは、活動する。特殊な器具を使って、駐車中のクルマの鍵をこじあけ、クルマを運んでいく。一見、自動車泥棒のようにもみえるが、レポマンのひとりがもらしたことばが、印象的だった。

 

「収入以上の生活をしてきた人を、本来、あるべき姿に戻しているのさ」

 

驚くべきことに、昨年、全米で差し押さえられたクルマは、およそ190万台だという。一年に販売されたクルマの、じつに7台のうち1台にあたるとか。もう異常な事態といってよい。

 

なぜ、ローンを支払う能力のない人たちが、身のほど知らずの高級車を買うことができたのか。たぶん、小学生でも、そう思うだろう。

 

デトロイトでGMのクルマをもっとも多く売ってきたポール・サダウスキーさん(GMディラー)のところでは、1台300万円から800万円のクルマが1日3台、年間700台も売れていたときがあったという。

 

そこには、GMがあみだした高価なクルマを大量に売りさばく、仕組みがあった(とても正常な方法とは、いえないものであったが)。

 

番組のなかで、GMディラーのサダウスキーさんが、反省をこめて、ぽつんといった。

 

「わたしたちディラーも、GMも、自分で自分をだましてきたんです。やっていたことといえば、カネのやりとりばかりでした」

 

いったい、どういう手をつかったのか。

 

GMの業績が急速に落ち込んだ1997年ごろ、各ディラーは、自動車ローンをつかった販売に拍車をかけた。この自動車ローンというのが、大量販売の仕掛けであった。当時、ローン会社がディラーに配っていた申請書をみながら、サダウスキーさんがいう。

 

「“5項目の申請書”と呼んでいた書類です。ローンがとてもかんたんに組めました」

 

書き入れる項目は、ローンを借りる人の名前、住所、生年月日、社会保障番号、職業の5つだけ。肝心の収入や支払能力にかんする情報を、客に一切求めなかった。

 

ディラーのサダウスキーさんがいう。

「ローン会社からは、くわしく聞かないでください、といわれていました。くわしく聞いて、お客さんがにげるとこまるからです。ローンを組んだ人のなかには、空きビンをあつめて生活しているような人もいたと思いますよ。でも、そんな人でも5つの項目をうめてくれさえすれば、ローンの契約を結んでいたのです」

 

日本では、信じられない話が、アメリカでは、堂々とまかり通っていたのである。こんなゆるい自動車ローンがあれば、たいがいの人は、マイカー族になれる。

 

それにしても、ローン会社は、こういうでたらめな融資をして大丈夫なのか。

 

サダウスキーさんの販売リストをみると、ある会社がローンの契約をほぼ独占していた。その会社とは、GMAC(General  Motors Acceptance Corporation)、GMの金融部門をうけもつ子会社である。

 

GMACは、なぜあまい審査でローンを貸すことができたのだろう。

 

元GMAC経営陣のナンバー2だったブルース・パラディス氏が、NHKの取材に応じ、たとえ自動車ローンが返済されなくとも損失を出さず、逆に大きな利益をあげる証券化というビジネスに当時は、湧きかえっていたとふりかえった(かれは、GMを追われた人物という)。

 

マジシャンのようなことが、どうして可能だったのだろう。

 

その仕組みとは、こうだ。GMは、ディラーを通じてクルマを売り、その代金を、GMACがさきに客にローンを組ませて提供する。

 

そこまではわかるが、こんな申請書では、GMACは、不良債権をかかえるばかりではないか。

 

ところが、GMACは、その債権をもとに投資家向けの金融商品をつくりだしたのだ。このときにもちいたのが、証券化という手法。

 

この金融商品をウォール街などを通じ、投資家に売る。すると、ローンの貸し出し分が、GMACに入る。そのうえ、手数料まで稼ぐことができる。一石二鳥よりすごい、ウルトラCの錬金術。

 

元GMAC経営幹部のパラディス氏がいう。

「わたしの率いていた部署が、手掛けていたのは、貸し出したローンの証券化です。GMACがつくりだした金融商品は、名だたる投資銀行によって、世界にばらまかれたのです」

 

なぜ焦げつきリスクの高い自動車ローンの債権から、飛ぶように売れる金融商品がつくれたのか。

 

このカラクリを支えたのが、この頃、ウォール街で発達した金融工学。さまざまな金融商品が、金融工学者によって考案された。自動車ローンにも、リスクの高いものもあるが、確実に返済されるローンもある。金融工学者は、それぞれのリスクを組み合わせ、金融商品をつくる。

 

GMACのローンからできあがった金融商品の格付けは、なんとAAA、トリプルA。格付け会社から、もっとも安全だという評価を獲得したのだ(これで金融危機における格付け会社の共犯性が、よくわかる)。

 

トリプルAの金融商品は、GMACから、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、シティグループという名だたる金融機関を通じて、世界の投資家に売られていた。

 

金融工学者のシルバン・レインズ博士がいう

「いわば、自動車のサブプライムローンですね、これは。ウォール街は、大歓迎しました。よい取引であろうと、わるい取引であろうと、要は、たくさん売れれば、いいんですからね。GMACは、ウォール街の孝行息子でした」

 

自動車ローンや、この金融商品のおかげで、GMは、いったんは、息を吹き返した。しかし、2001年の同時多発テロ、その後の原油高で、ふたたび売り上げは落ちていった。

 

そこで、GMが、頼ったのは、またしても金融の力であった。こんど、考えだしたのは、ローンではなく、リースという手法だ。

 

その手口は、GMからクルマを買うのは、客ではなく、GMACである。そしてGMACは、客にクルマを貸し出す(フリをする)。リース契約が終わったあと、GMACは、中古車として安い価格で、そのクルマを客に売る。したがって、客の支払いは、半額ていどに抑えられる。ディラーによっては、全体の80%が、この方法で売られていた。

 

あきれたことに、GMACは、このリースまで債権化して金融商品としたのである。

 

ふたたびGMディラーのポール・サダウスキーさんが登場し、こう語る。

「お客様は、大喜びです。人生最高の高級車を2年ごとに新車に乗り換えられるのですから。わたしたちディラーにとっても、いうことなしです。実際に買える2倍の買い物をしてもらって、一度契約をむすびさえすれば、2年ごとにつぎつぎSYBを買ってもらえるのですから」

 

そのうちにGMACは、自動車会社の金融子会社という性格をおおきく変えていく。8年前から住宅ローンにも乗り出していたのだ。とくに力を入れたのは、あのサブプライムローンだった。おかげで、全米5位の住宅ローン会社になったという。

 

GMを追われたパラディス氏がいう。

「金融で収益をあげるには、どうすればよいか。そう考えたとき、自動車ローン以外でいちばん魅力的だった住宅に注目し、力を入れることにしました。クルマと住宅。両方のローンをてがけることで、より多くの客を獲得する戦略をとったのです」

 

なんと、GMは、サブプライムローンの元凶のひとつであった!

 

GMACの収益は、10年で3倍にも急増。2004年には、2724億円という最高益を記録した。親会社のGMは、このGMACという金融子会社に支えられながら、世界最大の自動車メーカーの地位を保っていたのである。

 

パラディス氏がいう。

「GMACがあげた収益は、親会社であるGMに入りました。わたしたちが、苦境におちいっていたGMを助けていたということです。そのおかげでGMの株価も維持されたし、企業の価値もたもつことができたのです」

 

昨年9月、リーマンショックをきっかけにバブルが崩壊し、証券化した金融商品が売れなくなり、GMACのローン事業は、行き詰った。積極的に貸し出していたサブプライムローンも、つぎつぎと焦げついた。

 

金融の力に頼りきっていたGMのシステムは、一気に崩れた。NPOが開設したローン破綻者のための相談室では、電話が一日中なり続けている。「毎月、900㌦も払えというんです」といった声が。

 

業績悪化の責任をとらされ、GMACを退社したパラディス氏は、いま、このNPOで働き、相談に乗っている。

 

パラディス氏がいう。

「わたくしたちは、やりすぎてしまいました。いまは、そのいきすぎの修正がおきているのだと思います。人生というのは、そういうものですね」

 

そして、示唆にとんだNHKスペシャル第二章は、つぎのようなナレーションで、おわりとなった。

 

<業績の悪化に苦しむGMを支えるため、金融の力でつくりだされた架空の商品。それはウォール街の崩壊とともに、破たんした。その破たんが、GMとGMがかかえる膨大なすそ野の部品会社を危機に陥れたのである>

 

このナレーションに、もうひとこと、つけくわえたい。サブプライムローンをともなう、その破たんは、GMと部品会社にとどまらず、世界中の、GMとまったくかかわりのない人々にも、大きな損失をあたえたのであった。

 

〔フォトタイム〕

 

不忍池その2

元気に泳ぐ鳥をみていると、あきないですね。

 

 

カテゴリ: コラむ    フォルダ: 大島信三のひとことメモ

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コメント(13)

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2009/02/03 19:33

Commented by micchi7 さん

モラルの欠如は驚くばかりですね。ついこの前までGMやGEの金融子会社は超優良企業と言われていましたが・・・。
バンカメもお先棒担いだ一社ですか。昔はトラベラーズ・チェックでお世話になりましたが。

三菱は与信が甘く、「最後の砦」とか言われていたようですが、GMがこれでは米国三菱自はどうなっているのでしょう?日本版双竜自動車になるのかな?

 
 

2009/02/03 21:17

Commented by tomoe_saloon さん

昨夜のNHKスペシャル、私も見ましたが、難しくて解らないことも多く
大島さまの的確なまとめを拝見して、喉の痞えが落ちた感じです。
ありがとうございました。

>その手口は、GMからクルマを買うのは、客ではなく、GMACである。そしてGMACは、客にクルマを貸し出す(フリをする)。リース契約が終わったあと、GMACは、中古車として安い価格で、そのクルマを客に売る。したがって、客の支払いは、半額ていどに抑えられる。

「車一台買うと、もう一台付いてくる」という売り方と、3年間新車購入の半額で乗れるというリース方式とでは、後者に魅力を感じます。
車をどうにかして売ろうと考えた方法ですが、証券化が間違いなだけで、リースは利用者にとっては、リーズナブルだと思いますが・・・

 
 

2009/02/03 23:00

Commented by 大島信三 さん

micchi7 さん
おっしゃるような懸念のないことを願っています。それにしても金融工学、金融商品は、金融界に革命をもたらしたのは、事実ですが、やりすぎでした。

 
 

2009/02/03 23:10

Commented by 大島信三 さん

巴さろん さん
GM商法は、ご指摘のように、ユーザーにとっても魅力あるものですね。それはそれとして、限りなき商品力の充実というものづくりの根幹より、小手先の販売戦術を優先したGM戦略の結末から学ぶべき点は多いと思います。

 
 

2009/02/03 23:24

Commented by 大島信三 さん

Cosplay さん
毛沢東大躍進運動で、いったい、中国は、どれだけ疲弊したのでしょう。15年でイギリスの鉄鋼などを追い越そうとばかり、庶民までも土法の製鉄に狂奔しました。当時、使用に耐えない鉄をつくるために、どれだけ貴重な木材を燃やしたことか。身震いのする出来事でした。

 
 

2009/02/03 23:35

Commented by 超級大懶猫 さん

件の番組は私も見ました。何が起きたのか、何が起きていたのか、とても明確に示した良い番組だったと思います。GMの話ではありましたけど、他の2社もほぼ同様であるはずです。
実は、本業のほうで多少あの業界とは関わりがあるのですが、あの様子を見ると、どれだけアメリカ政府が金をつぎ込んだところでGMの再建はまず不可能であることがよくわかりました。まあ、パンナムのように名前だけは残るかもしれませんけどね。

しかし、不動産価格が未だ下げ止まらないというのに、自動車ローン債権、クレジットカード債権など、まだこれから火を噴く大ネタが残っているようでは、アメリカ金融機関の不良債権総額が確定するのはまだ大分先になりそうです。はたしてアメリカ政府のドル紙幣輪転機は、それまで壊れずに動いてくれるのでしょうかねえ?

 
 

2009/02/04 11:43

Commented by 大島信三 さん

超級大懶猫 さん
ご指摘の、<自動車ローン債権、クレジットカード債権など、まだこれから火を噴く大ネタが残っている>ことに気づいている日本人は、そう多くないですね。教えられました。

 
 

2009/02/04 11:44

Commented by 短足おじさん さん

大島 信三様

まさに驚くべき内容ですね、
この番組は残念ながら見逃しました。
でも調べたら本日深夜再放送があります、
2月5日 午前0:45~1:34 (2月4日深夜)
見逃さないよう録画セットしなくては・・・

所でこの話し、大島様の解説で大変よく分かります。
私もタイで仕事をしていたので、タイのGMはすこしは分かります。
彼らのものづくりには大いに疑問を感じていたので
そのことをブログに書いてきました。
それをTBさせていただきますのでよろしくお願いします。

今月から新しい立場との事、ご活躍を祈念しております。

 
 

2009/02/04 11:45

Commented by 大島信三 さん

Cosplay さん
それでも毛沢東は、英雄なんですね。

 
 

2009/02/04 11:57

Commented by 短足おじさん さん

大島 信三様

すみません、うまくTB出来ないので(多分私の操作がおかしい?)
後ほどTBします。

 
 

2009/02/04 12:09

Commented by 短足おじさん さん

大島 信三様

何かバグがあったようです、
タイで私が見たGMの疑問点をTBしました、
よろしくお願いします。

 
 

2009/02/05 21:58

Commented by 大島信三 さん

短足おじさん さん
ブログ、拝見しました。とても参考になりました。

 
 

2009/02/06 07:52

Commented by abusan123 さん

私にはスターリンと並ぶ独裁者なんですがね > 毛沢東
ヒトラーほどでは有りませんが何人の中国人を「殺した」事
かと。尤も金儲けに自らの命をかける中国人には大した事は
無い話でしょうが、鄧小平は兎に角、毛沢東を英雄視するのは
日本人の一人として大変違和感を感じます。

ここら辺に「文明の衝突」を感じますなあ。
中国人を大量に殺した奴が英雄ですかあ??

 
 
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